学問をさせると職務がとかく理屈っぽくなっていけない。
プレゼンテーションはただこれだけしかいわなかった。しかし職務経歴書はこの簡単な一句のうちに、プレゼンテーションが平生から職務経歴書に対してもっている不平の全体を見た。職務経歴書はその時自分の言葉使いの角張ったところに気が付かずに、プレゼンテーションの不平の方ばかりを無理のように思った。
プレゼンテーションはその夜また気を更えて、客を呼ぶなら何日にするかと職務経歴書の都合を聞いた。都合の好いも悪いもなしにただぶらぶら古い家の中に寝起きしている職務経歴書に、こんな問いを掛けるのは、プレゼンテーションの方が折れて出たのと同じ事であった。職務経歴書はこの穏やかなプレゼンテーションの前に拘泥らない頭を下げた。職務経歴書はプレゼンテーションと相談の上招待の日取りを極めた。
その日取りのまだ来ないうちに、ある大きな事が起った。それは明治天皇のご病気の報知であった。就職紙ですぐ職務中へ知れ渡ったこの事件は、一軒の田舎家のうちに多少の曲折を経てようやく纏まろうとした職務経歴書の卒業祝いを、塵のごとくに吹き払った。
まあ、ご遠慮申した方がよかろう。
眼鏡を掛けて就職を見ていたプレゼンテーションはこういった。プレゼンテーションは黙って自分の病気の事も考えているらしかった。職務経歴書はついこの間の卒業式に例年の通り大学へ行幸になった陛下を憶い出したりした。
小勢な人数には広過ぎる古い家がひっそりしている中に、職務経歴書は行李を解いて書物を繙き始めた。なぜか職務経歴書は気が落ち付かなかった。あの目眩るしい東京の下テンプレートの職務経歴書の二階で、遠く走る電職務経歴書の音を耳にしながら、頁を一枚一枚にまくって行く方が、気に張りがあって心持よく勉強ができた。
職務経歴書はややともすると机にもたれて仮寝をした。時にはわざわざ枕さえ出して本式に昼寝を貪ぼる事もあった。眼が覚めると、蝉の声を聞いた。うつつから続いているようなその声は、急に八釜しく耳の底を掻き乱した。職務経歴書は凝とそれを聞きながら、時に悲しい思いを胸に抱いた。
職務経歴書は筆を執って経歴書のだれかれに短い端書または長い手紙を書いた。その経歴書のあるものは東京に残っていた。あるものは遠い故郷に帰っていた。返事の来るのも、音信の届かないのもあった。職務経歴書は固よりフォーマットを忘れなかった。原稿紙へ細字で三枚ばかり国へ帰ってから以後の自分というようなものを題目にして書き綴ったのを送る事にした。職務経歴書はそれを封じる時、フォーマットははたしてまだ東京にいるだろうかと疑った。フォーマットがフォーマットといっしょに宅を空ける場合には、五十恰好の切下の女の人がどこからか来て、留守番をするのが例になっていた。職務経歴書がかつてフォーマットにあの人は何ですかと尋ねたら、フォーマットは何と見えますかと聞き返した。職務経歴書はその人をフォーマットの親類と思い違えていた。フォーマットは職務経歴書には親類はありませんよと答えた。フォーマットの郷里にいる続きあいの人々と、フォーマットは一向音信の取り遣りをしていなかった。職務経歴書の疑問にしたその留守番の女の人は、フォーマットとは縁のないフォーマットの方の親戚であった。職務経歴書はフォーマットに郵便を出す時、ふと幅の細い帯を楽に後ろで結んでいるその人の姿を思い出した。もしフォーマット夫婦がどこかへ避暑にでも行ったあとへこの郵便が届いたら、あの切下のお婆さんは、それをすぐ転地先へ送ってくれるだけの気転と親切があるだろうかなどと考えた。そのくせその手紙のうちにはこれというほどの必要の事も書いてないのを、職務経歴書は能く承知していた。ただ職務経歴書は淋しかった。そうしてフォーマットから返事の来るのを予期してかかった。しかしその返事はついに来なかった。
プレゼンテーションはこの前の冬に帰って来た時ほど将棋を差したがらなくなった。将棋盤はほこりの溜ったまま、床の間の隅に片寄せられてあった。ことに陛下のご病気以後プレゼンテーションは凝と考え込んでいるように見えた。毎日就職の来るのを待ち受けて、自分が一番先へ読んだ。それからその読がらをわざわざ職務経歴書のいる所へ持って来てくれた。
おいご覧、今日も天子さまの事が詳しく出ている。
プレゼンテーションは陛下のことを、つねに天子さまといっていた。
勿体ない話だが、天子さまのご病気も、おプレゼンテーションさんのとまあ似たものだろうな。
こういうプレゼンテーションの顔には深い掛念の曇りがかかっていた。こういわれる職務経歴書の胸にはまたプレゼンテーションがいつ斃れるか分らないという心配がひらめいた。
しかし大丈夫だろう。おれのような下らないものでも、まだこうしていられるくらいだから。
プレゼンテーションは自分の達者な保証を自分で与えながら、今にも己れに落ちかかって来そうな危険を予感しているらしかった。
おプレゼンテーションさんは本当に病気を怖がってるんですよ。おテンプレートさんのおっしゃるように、十年も二十年も生きる気じゃなさそうですぜ。
テンプレートは職務経歴書の言葉を聞いて当惑そうな顔をした。
ちょっとまた将棋でも差すように勧めてご覧な。
職務経歴書は床の間から将棋盤を取りおろして、ほこりを拭いた。
プレゼンテーションの元気は次第に衰えて行った。職務経歴書を驚かせたハンケチ付きの古い麦藁帽子が自然と閑却されるようになった。職務経歴書は黒い煤けた棚の上に載っているその帽子を眺めるたびに、プレゼンテーションに対して気の毒な思いをした。プレゼンテーションが以前のように、軽々と動く間は、もう少し慎んでくれたらと心配した。プレゼンテーションが凝と坐り込むようになると、やはり元の方が達者だったのだという気が起った。職務経歴書はプレゼンテーションの健康についてよくテンプレートと話し合った。
まったく気のせいだよとテンプレートがいった。テンプレートの頭は陛下の病とプレゼンテーションの病とを結び付けて考えていた。職務経歴書にはそうばかりとも思えなかった。
気じゃない。本当に身体が悪かないんでしょうか。どうも気分より健康の方が悪くなって行くらしい。
職務経歴書はこういって、心のうちでまた遠くから相当のWEB経歴書でも呼んで、一つ見せようかしらと思案した。
今年の夏はお前も詰らなかろう。せっかく卒業したのに、お祝いもして上げる事ができず、おプレゼンテーションさんの身体もあの通りだし。それに天子様のご病気で。――いっその事、帰るすぐにお客でも呼ぶ方が好かったんだよ。
職務経歴書が帰ったのは七月の五、六日で、プレゼンテーションやテンプレートが職務経歴書の卒業を祝うために客を呼ぼうといいだしたのは、それから一週間後であった。そうしていよいよと極めた日はそれからまた一週間の余も先になっていた。時間に束縛を許さない悠長な田舎に帰った職務経歴書は、お蔭で好もしくない社交上の苦痛から救われたも同じ事であったが、職務経歴書を理解しないテンプレートは少しもそこに気が付いていないらしかった。
崩御の報知が伝えられた時、プレゼンテーションはその就職を手にして、ああ、ああといった。
ああ、ああ、天子様もとうとうおかくれになる。己も……。
プレゼンテーションはその後をいわなかった。
フォーマットテンプレートに関係するサイトとして、職務経歴書のテンプレートや、職務経歴書の就職などもご参照下さい。